一冊の小さなアルバムを手に入れた。ちょうど単行本ほどの大きさで、グリーンの表紙にグレイの台紙がブルーのひもで綴じてある。ほとんどの写真は6センチX6センチのモノクロネガからの密着プリントで1頁に4〜6枚、約40頁程のボリュームがある。たいがいの写真には、場所と日付けのキャプションが台紙に手書きで添えられている。
イングランドでは春から夏にかけて、ファームのフィールドなどで、"car boot sale" と呼ばれるフリーマーケットがかなりさかんにひらかれる。場所によってはちょっと信じられないくらい大規模で、会場に車で向かっていると前後を走っている車が次々とおもしろいように "car boot sale" に吸い込まれてゆく。ここではありとあらゆるものが売られていて、そのバラエティはすさまじい。ほとんどはセカンドハンドのもので、プロのディーラーもたまにいるが、大多数はふつうの人が家のなかの不要品をカーブーツ(車のトランク)に詰め込んでやってくる。

それほど大きくない家具や鋤鍬、シャベルの類い等々、永年よく使い込まれた様子のものばかりをならべている初老の女性がいた。どれもとてもうつくしいものにみえる。彼女が着ているBarbourのコートも肘から袖にかけて、かなり擦り切れてはいるがきれいに継ぎが当てられている。空になったロングホイールベースのランドローバーの荷台にはプリムスのパラフィンストーブにアルミのケトルがかけられていて、ティーのしたくがしてある。

彼女の売り物のなかに小さな引き出しが一つ付いているパインのキッチンテーブルがあった。ナイフの痕やシミなどおびただしいが、ていねいにビーワックスがかけられ、そういったさまざまな痕跡が美しくフィックスされている。引き出しをあけてみると小さなアルバムが入っていた。『テーブルを買うとこのアルバムもついてくるの』ときいたつもりだったが『FIFTY PENCE』という返事がかえってきた。はじめのほうの2、3ページをなんとなく見てあまり考えずにとりあえずそのアルバムを買うことにした。50ペンス、約90円。

2ページめの下段3枚のうち真中の写真には、崩れかけた城壁のようなものを背景に大柄な帽子をかぶった女性と小柄な白髪の男性が腕を組んで、画面のセンターよりかなり左側に寄ったところでカメラにむかって立っている。そして、女性のうすい色のコートと男性の濃い色のスーツのジャケットの裾が画面左側から吹いてきた風でめくれてしまっている。男性の右手はジャケットの前を押さえているようにもみえる。女性のほうはあまり気になっていないようで無邪気に笑っている。写真の下、グレイの台紙には黒いインクで" WALMER 11th May 1949 "とキャプションがある。

1949年の5月11日にWALMERという場所で彼等はある時間をすごし、この写真を撮った。そしてそのとき風が吹いていた。ただそれだけのことだけれども、このグリーンの表紙のアルバムにはそういうことがたくさん詰まっている。それはフィフティペンスの買い物ににしてはなかなか嬉しいことだと思う。

text and photographs by Torahiko Takewaki

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